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イミテーションゲーム 【ネタバレ解説】 背景にあるチューリングの理論・学問に迫る

記事の内容

 

・映画イミテーションゲームの感想、解説、見所を知りたい
・チューリングという人物について
・チューリングマシンの概要
・学問としての背景はどうなっているんだろう

 

映画そのものの良質な解説記事はたくさんある。

今回の記事では、映画の解説をしつつ、チューリングという人物、業績に焦点を当ててみたい。

 

最近、AIが流行っている。彼のチューリングマシーンという概念こそ、コンピュータの基礎、AIの基礎につながる考え方だ。彼について理解を深めるのは、この現代でAIというものを深く知るためにも有効だと思う。

 

「映画も面白かったし、その背景をもっと知りたい」

 

そんな希望をこの記事では叶えたい。

 

 

 

 

映画 イミテーションゲーム エニグマと天才数学者の秘密

 

 

あらすじ

映画は第二次世界大戦中にエニグマ暗号の解読に取り組み、のちに同性間性行為のかどで訴追を受けたイギリスの暗号解読者アラン・チューリングを描く。  

 

予告


映画『イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者の秘密』予告編

 

 

 

 

 

なぜイミテーションゲームというタイトルか?

 

イミテーションゲームは、チューリングテストとも呼ばれる。AIが流行っている現在、この言葉を聞いたことがある人も多いだろう。

 

では、なぜイミテーションゲームというタイトルなのか。

 

この映画は、チューリングという男の物語である。それならば、彼の人生をかけた目標とはなんだろう。

 

それは、人間の知能を機械で再現することである。エニグマという暗号を解くのが、彼の人生の目的などではなかった。

 

では、その彼の目的の「動機」とはなんだったのか?それを描くのがこの映画はうまかった。(ただし、映画としての脚色の可能性もある)

 

彼は、同性愛者であり、少年時代の親友クリストファーに恋をする。しかし、その親友は亡くなってしまうのだ。それ以来チューリングは、クリストファーへの思いを持ち続けていたのだ。その証拠に、彼は劇中で作成するコンピュータの原型とも言えるマシーンに名前をつけている。クリストファーだ。

 

戦争があり、同性愛も法律で罰せられるような時代に彼は生きた。

同性愛の罪を問われ、エニグマを解析した功績は隠蔽され、彼は追い詰められてしまう。

 

そんな彼の部屋には、静かに稼働し続けるマシーンがあった。クリストファーだ。そのマシーンをチューリングは、様々な気持ちの入った表情で見つめ続けていた。

 

その後に、彼は自殺する。

 

 

 

 

 

イミテーションゲーム、チューリングテスト

 

どうして、「イミテーション・ゲーム」というタイトルなのか。
 
ここに、チューリングがコンピュータの実現に向けた思いが込められていると思う。
 
ただ、当時はコンピュータという言葉も概念もない時代だった。イミテーションという言葉の意味は、「模倣」である。
 
何を模倣するのだろう?
ここで、タイトルでもあるイミテーションゲームの意味を再確認しよう。
 
イミテーションゲームとは、コンピューター思考能力評価するために行なわれるゲームのことである。人工知能AI)の開発利用される。
コンピューター人間に同じ質問をして、それぞれがどちらの回答であるかを隠し第三者提示してどちらがコンピューター回答であるかを判定させるというものである人間コンピューター区別付かないならば、そのコンピューターは優秀である(より人間に近い)とされる
 
 
人間の知能を模倣するわけだ。
それならば、「知能」とはなんだろう?
 
この大きな疑問と哲学者、科学者はずっと格闘してきた。その一つの表れが、人工知能研究だ。そして、チューリングが提唱した概念こそが、コンピュータの基礎、人工知能の基礎につながっていく。
 
 
 
 
 

計算機械と知性

 

イミテーションゲームというタイトルは、彼の重要な論文に由来する。

 

『計算機械と知性』と題された1950年の論文だ。この論文は次の文で始まる。

 

「機械は考えることができるか」という問題を考察してみよう。そのためには「機械」と「考える」という言語の意味を定義することから始めるべきだろう。

 

 

知性を構成するために、その働きの一部である「考える」に注目するのだ。

 

そのためには、一つ一つの概念を厳密に定義する必要がある。

 

「考える」という概念を定義するために、計算という概念を定義する。それでは、「計算する」ってなんだろう?

 

このようにして、人間の知性が持つ「考える」という働きを、「機械」で再現する一歩がスタートした。今回の映画では、チューリングがどんな思いで知性を再現しようとしたのかが暗示される演出になっている。

 

「計算する」ということを定義するには、曖昧ではいけない。そのためには、形式的な定義が有効だ。この形式性を表現するために、チューリングマシンという仮想的な計算機を彼は定義した。このチューリングマシンで行える操作を、計算することの定義としたのだ。

 

ここでやっと、計算することの定義が見えてくる。定義ができたおかげで、計算することの性質もわかってくる。その重大な帰結として、チューリングの停止問題という言葉は覚えておくべきだろう。チューリングマシンには、問題として定式化できるのに答えを出せない問題があるのだ。この限界は、たとえAIが進歩したところで変わらない。数学の定理の強さがわかる。

 

この論文そのものが収録されていて、おすすめな本は次だ。

現代思想2012年11月臨時増刊号 総特集=チューリング

現代思想2012年11月臨時増刊号 総特集=チューリング

  • 作者: アラン・チューリング,円城塔,信原幸弘,郡司ペギオ幸夫,照井一成,ドミニク・チェン,安西祐一郎,柄沢祐輔,池上高志,鈴木誉保,三浦岳,新井紀子,西垣通,佐藤文隆,西川アサキ,高橋昌一郎,田中一之
  • 出版社/メーカー: 青土社
  • 発売日: 2012/10/17
  • メディア: ムック
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本書では他にも、豪華な専門家たちが、チューリングの思想について様々な解釈をしてくれている。最高に知的好奇心をくすぐられる本だ。

 

・人間は計算可能である?

・チューリングテストと模倣の問題

・相互作用としての計算

・生物のかたちを決める設計図

 

などなど、魅力的な話題が満載。

 

 

 

 

 

チューリング入門

 

次のような本が、入門としては優しいと思う。やはり、コンピュータサイエンスの基礎にどのようにつながっているのか、という点が重要だろう。

 

チューリングの考えるキカイ ?人工知能の父に学ぶコンピュータ・サイエンスの基礎

チューリングの考えるキカイ ?人工知能の父に学ぶコンピュータ・サイエンスの基礎

 
万能コンピュータ: ライプニッツからチューリングへの道すじ

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こちらの記事では、チューリングおすすめ本をまとめています。もっと知りたい方におすすめ。

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