記事の内容
今回は、昆虫における性愛についての本だ。
タイトルのとおり、メスとオスの対立が軸になっている。それを専門用語では、性的対立と呼ぶらしい。
この性的対立に基づいた、昆虫の繁殖行動、そしてその進化などについて楽しく読むことができる。
そして、そこから見えてくる「愛」は、同じ生物である私たち人間にとっても大きな示唆をもたらしてくれるはずだ。
今回の記事では、この本からいくつかのテーマをまとめたい。
したがるオスと嫌がるメスの生物学 昆虫学者が明かす「愛」の限界
近年、世界中で新発見が相次ぎ、進化生物学界で論文が急増中のテーマ「性的対立」。この分野の国内第一人者である昆虫学者が、四半世紀以上の長きにわたる自身の研究成果を紹介しながら、進化生物学の初歩から驚きの最新知見までを明らかにする。より多くの精子をより効率的にばら撒きたいオスと、より質の良い精子を厳選したいメス。そんな繁殖戦略の違いによって生じる「性的対立」と「対抗進化」の世界を、著者は昆虫学の目で問い直す。受精、つまり「愛の成就」に最も重要な決まり手とは何か。われわれ人類の求愛行動への示唆にも富んだ、目からうろこが落ちる一冊。
昆虫の行動を科学的に分析した本。その中心にあるテーマが繁殖行動だ。
著者の科学者としての考え方も随所に散りばめられていて、研究することの面白さも伝わってくる。とてもいい科学読み物だと思う。
しかし、タイトルにある「愛」の限界という視点には注意が必要だ。なぜならば、「愛」という概念は昆虫のものではないからだ。一応、人間を想定した概念として使われている。
だから、愛を昆虫側だけの分析で語り切ることは難しいし、著者もそれを意図してはいない。タイトルそのままの答えをこの本に求めるのは、筋違いかもしれない。
オスとメスの性的対立
進化生物学では、性的対立が注目されている。
同性内選択とは、オス同士の競争のことだ。これは、シカのツノの大きさなど、目に見える性質から、精子の競争レベルのものまである。
この精子競争も、昆虫は様々な戦略を形成してきた。
いかに自分の精子を有利にさせるのか、工夫が見られる。自分以外のオスと生殖させないようにしたり、他のオスの精子を書き出したり。
そして、なんと毒のある精子をもつ生物もいる!!!!
キイロショウジョウバエだ。
精子の毒によって、メスは寿命が縮んでしまう。これはいったいなんの目的があるのだろう?
これも、他のオスの精子を殺して自分のDNAを残すためだ。
「世の中にはメスとオスの対立によって互いが拮抗し、暴走する進化の形がある」というアイデアが確からしくなってきた。まさに毒のある精子は、暴走的な例だろう。
他にも、トゲの生えたペニスなどの例がある。
メスとオスが仲良く同じ方向へ共進化するのか、それとも終わりなき対立を続けてしまうのかは、交尾がメスにとって利益になるか不利益になるのかに依存している。
最終決定権を握っているのはメス
交尾後にも選択の場があることが、いくつかの昆虫で確認されている。それは、メスがどのオスの精子を使うのかを選べるというものだ。3つの袋にそれぞれ別のオスの精子を保存しておけるのだ!
さらには、動物の中には、恣意的に流産することができる生物も存在する。これもよりよい遺伝子によって子孫を残すためだ。
オスの場合は、競合となるオスの数が多いほど放出する精子の数が多くなることが観察されている。これも、メスが競争力の高い精子をゲットできることにつながるという。
愛はタイミングで決まる
生物は遺伝子の奴隷か??
昆虫から学べることは何か、と問われれば、「性選択も含め自然選択は無慈悲である」という一言に尽きる。いかにも、索然とした話だが、生物は事実、DNAを残すためだけのゲームとして進化したのだから、これは仕方がない。
昆虫の性的対立を見れば、人間社会のあちこちで生じている紛争から家庭内暴力までの全ては、利害の対立が生んだ結果でしかないことがわかる。
しかし、昆虫たちは性的対立から逃れることはできないが、人間には他の方法も取れるはずだ、と著者は言う。
さらに詳しくは、ぜひ本書へ進んでみてほしい。
ただ、人間の生活の軸にも、「性愛」と言うものは欠かせないだろう。人間の男と女の関係を見ればわかるように、そこにも大きな性的対立が見える。人間の社会はこの事実をどのように受け止めるのだろうか。
性による進化の仕組みから、人の心にアプローチする学問もある。進化心理学だ。
次の記事にまとめている。