記事の内容
遺伝とわたしたちの関係について見直すことのできる本を紹介する。
行動遺伝学が専門の安藤寿康氏の本だ。
遺伝子に関する研究成果がどんどん出てきている現在、今を生きる私たちも「遺伝と能力」の関係について正しく知っておくべきだと思う。
そうすることで、より合理的な成長に役立てることができるはずだ。
・遺伝子とわたち
・遺伝子と社会
などのテーマについて関心がある人には、おすすめな本になる。
遺伝子の不都合な真実 安藤寿康
勉強ができるのは生まれつきなのか?仕事に成功するための適性や才能は遺伝のせいなのか?IQ、性格、学歴やお金を稼ぐ力まで、人の能力の遺伝を徹底分析。だれもがうすうす感じていながら、ことさらには認めづらい不都合な真実を、行動遺伝学の最前線から明らかにする。親から子への能力の遺伝の正体を解きながら、教育と人間の多様性を考える。
教育、遺伝子検査、経済など幅広い話題を扱っている。
内容は、タイトルのように過激なものではなく、とても冷静なものだった。科学者らしい合理的な判断で、「不都合な真実」を明らかにしてくれる。
行動遺伝学とは?
環境も遺伝も両方を見る。
一方、環境を重視するのが、環境論者。
「遺伝の影響をきちんとみすえた上で、環境との関わりを理解し、設計していくべき」
これが、行動遺伝学の基本的な態度。
行動遺伝学の3原則
・行動にはあまねく遺伝の影響がある
・共有環境の影響がほとんどみられない
・個人差の多くの部分が非共有環境から成り立っている
「遺伝」の大きな勘違い
遺伝を、親の特徴をそのまま受け継ぐこと、と考えるのは勘違い。
父親と母親の遺伝子を半分ずつ受け継ぐ。そして、それらの組み合わせは膨大にある。だから、子どものバリエーションも多様になる。
親と同じ性質を持った子どもがそのまま生まれるという先入観は捨てねばならない。むしろ、親と同じ遺伝的素質をもった子は、非常に現れにくい。古今東西一度も生まれたことのない新しい個体を生み出す仕組みが遺伝子にはある。
だから、逆説的に「遺伝は遺伝しない」ともいえる。
遺伝と教育
共有環境、つまり、生まれてからの親の育て方の影響がほとんどみられないこと。これは、学校などの教育という環境の効果に疑問を投げかける。
遺伝子の側から見たら、教育のあり方の方がむしろ不都合な存在なのではないか?
いくら学校でみんなが同じことを同じ時間かけて学んでも、そこには差が生じるのは自然なことなはずだ。
にもかかわらず、学校では勉強ができない子は、本人や親の努力不足のせいにされてしまう。
環境こそが遺伝子を制約している
不自由さの原因は遺伝の側にあるのではなく、遺伝にとって不都合な環境の方にあるのではないか?と著者は仮説を立てている。
今ある文化環境、社会環境に適応させることのみを目的とし、その意味での望ましい行動へ変化させるという考え方一辺倒では、私たちは環境の奴隷である。
環境というシステムのせいで、個体の遺伝子というシステムが制限されてしまうのは、本末転倒に見える。
環境の不都合な真実
・行動の意味が環境によって異なる
・行動自体が環境によって異なる
・環境の意味が一人ひとり異なる
・遺伝の意味が環境によって異なる
全体的な感想
当たり前なことが書かれているな、という印象。
これら当たり前な認識が日本には足りていない、というのが著者の考えなのだろう。
しかし、タイトルに「不都合な」とつけるのならば、もっと踏み込んで描いて欲しかった。つまり、科学者として科学のデータを掲示する以外の試みも欲しかった気がする。「環境こそが遺伝子を制約している」などの面白い仮説もあるのだが、それならば、その部分をさらに深掘りして欲しかった。
当たり前のことを、中立に主張することの難しさが根っこにはあると思う。その難しさと、読み物としての本の面白さの両立をもっと期待したかった。
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