記事の内容
自己と非自己は連続的である
私たちの体を守ってくれている免疫系。
そんな免疫細胞たちは、どうやって、「自己」と「非自己」を区別しているのでしょうか。
自分を守るはずの免疫細胞が自分の体自身を攻撃してしまうこともあります。それが、自己免疫疾患などの病気です。
今回は、免疫のバランスを制御してくれるシステムに注目する次の本を紹介します。
『免疫の守護者 制御性T細胞とはなにか』
制御性T細胞
自己免疫疾患と呼ばれる病気では、自分の身体を、自身の免疫系が攻撃してしまう。
リウマチや1型糖尿病などがその例だ。
・自己を守るために免疫があるはずなのに、なぜ自己を攻撃してしまうのか?
・自己と非自己の違いとはなんなのか?
実は、胸腺で作られるT細胞の中には、そもそも自己を攻撃しやすい細胞が存在している。
つまり、自己を攻撃する免疫細胞を誰でも持っているのだ。
しかし、ふつうは、そうした細胞群を、ある細胞が抑制してくれている。
自己へ反応してしまう免疫系を抑制する免疫細胞。それこそが、本書のメインテーマである制御性T細胞だ。
制御性T細胞による抑制のバランスこそ、免疫系の「自分に反応しない」という状態を維持しているのだ。
制御性T細胞の研究により、免疫学的な「自己」と「非自己」の境界は生来的に固定されたものではないことがわかった。
境界は動く。
制御性T細胞の発生、機能発現、分化状態の維持、それらのすべてを制御しているマスター遺伝子も発見された。
制御性T細胞の量や活性を調整することで、自己に反応しやすいT細胞の応答性を制御できる。
これは、がん免疫や、臓器移植、アレルギー、自己免疫疾患などの治療法の発展につながる。
とくに、非自己ではなく自己であるガンの治療への期待が高い。
それだけではなく、胎児という異物をかかえる妊娠でも、制御性T細胞は重要な働きをしている。
制御の柔軟性
感染症に対抗するには強力な免疫系が必要になる。しかし、それが自己に向かえば、自己を破壊してしまう。
だから、微妙な制御が可能になるように、進化の過程で制御性T細胞を獲得していったと考えられる。
制御性T細胞が、免疫を抑制するメカニズムも明らかになった。そのメカニズムは、複雑な分、柔軟である。この柔軟性がキモである。
研究の展望
「文明の発達により感染症が減少し、ヒトの寿命が延びた現代では、さまざまな免疫疾患やがんの発症を促進するという Tレグの負の側面が強まってきたように見える。今後、研究が進み、人為的に Tレグの調節ができるようになれば、こうした問題を解決できるようになるだろう。」
(Tレグとは、制御性T細胞のこと)
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