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森博嗣の新作「オメガ城の惨劇」が発売されました。
この新作、シリーズのファンならば、特に嬉しい内容になっています。
なぜならば、本作にはサイカワソウヘイの登場が確約されているからです。
S&Mシリーズの主人公である犀川創平。
彼は、森博嗣のデビュー作「すべてがFになる」からの主要人物です。
シリーズのファンにとっては、彼の再登場ほど嬉しいことはないでしょう。
早速本書を読んだので、この記事ではネタバレ感想をまとめていきます。
あらすじ
「F」の衝撃、再び
孤島に聳えるオメガ城への招待に応じた六人の天才と一人の雑誌記者。
そこには、サイカワ・ソウヘイも含まれていた。彼らが城へやってきた
理由は、ただ一つ。招待状に記された「マガタ・シキ」の名前だった。
島へ渡るには、一日一便の連絡船を使用。帰りは、あらかじめ船を呼ぶ
必要がある閉じた空間。執事すら主催者の顔を知らず、招待の意図は
誰にもわからない。謎が多い中の晩餐をしかし七人は大いに楽しんだ。
そして、深夜。高い叫び声のような音が響き、城は惨劇の場と化した。
Amazon商品紹介より
オメガ城での殺人
招待されたメンバーのうち、3人が殺害された。さらに、正体不明の女性の遺体まで発見される。
合計で、遺体は4つだ。
さらに、城に仕えていたはずのメイドたちまで、一人の執事を除いて消えてしまった。
今作の語り手であるミヤチ。
彼女はサイカワと協力して、状況整理に努める。
事件の真相
この殺人の目的は、配偶者を殺すことだった。
つまり、被害者の配偶者が実行犯だ。オメガ城に被害者たちを招いたのもそのためだった。
正体不明の女性の遺体は、数学者であるアランレーヌの妻だった。
レーヌを殺そうとして、逆に殺されたのだった。
レーヌは、妻を殺してしまった負い目から、犯人たちに口止めを依頼されていた。
密室のように見えた事件現場も、単にマスターキーを犯人たちが利用しただけだった。
最近の森博嗣の作品らしく、事件そのもの、ミステリーそのものはとてもあっさりな仕上がり。
マガタシキの登場
さて、今作で嬉しいのが、マガタシキが登場することだ。しかし、本当に本人かどうかは分からない。
そもそも、森博嗣のシリーズ群では「本人である」の定義を見直すべきだろう。
森博嗣の数あるシリーズに、マガタシキらしき存在の影響が表れている。感じとれることは、「本人」という概念なんて、とても曖昧だということだ。
だから、今作に登場したマガタシキが本人かどうかは怪しい。どうでもいいのだろう。
しかし、彼女からはマガタシキらしい存在感、意志を感じた。作中のサイカワもそう感じていた。
サイカワへの違和感
今作を読んでいて引っかかったこと、それは、サイカワは本当にあの犀川なのか、という点だ。森博嗣の作品では、人物の入れ替え、引っ掛けが度々登場する。だからこそ、サイカワに違和感があった。
違和感をざっと上げてみる。
・マガタシキの名前があるからといって、わざわざ謎の会に犀川が参加するか?彼ならそんなものに興味ないはず。
・サイカワは絵画を眺めていた。本当の犀川なら、絵画に興味はなさそう。
・とくにフランスに舞台を移してからだが、本作の語り手であるミヤチにサイカワはとても優しい。本当の犀川なら、ここまで赤の他人と関わろうとするだろうか?
・サイカワはフランスの衣服店にコネがある様子。本当の犀川には似つかわしくない。
しかし、違和感はあるものの、サイカワは犀川らしさも持っている。
本質的思考、冷静さ、ユーモア、何より雰囲気が似ている。
犀川ではないがサイカワに似ている人物。
シリーズのファンである読者なら、一人の男が思い浮かんでいるはずだ。
サイカワの正体 べニコの登場
さて、そんなサイカワの正体は、なんとまさかの人物から語られる。
セザイマルベニコだ。
瀬在丸紅子、と書く。
犀川の実の母親である。
彼女いわく、サイカワの正体は、「保呂草潤平」という男だ。
彼の名前は、はっきりとは今作内にて明言されない。
漢字五文字であること、名前の最後が「平」であることというヒントから推定するしかない。
しかし、まあ、シリーズのファンなら、犀川の代役を務められるのは保呂草さんくらいだよね、と感じるはずだ。
保呂草さんと犀川が似ているのも無理はない。
犀川は、子供の頃に保呂草から影響を受けている。
それに、サイカワが城の図面を持ち出していたことの意味も明らかになる。図面ではなく、絵画を盗み出したのだろう。抜け目のない保呂草さんらしい。
また、紅子の夫の元に、オメガ城への招待が届いたというのも面白い。林さんは元気であり、まだ紅子のことを大切に思っているということだろう。
紅子、林、保呂草、犀川。
Vシリーズの面々だ。懐かしい。
「オメガ城の惨劇」では、S&MシリーズよりもVシリーズの面影を感じることができた。懐かしく嬉しい。
西之園萌絵は登場したのか?
犀川とセットで登場してくれたら嬉しい存在こそ、西之園萌絵だ。
しかし、今作のサイカワは本物ではなかった。
よって、萌絵も登場しない。
ソフィアの正体とは?
ミヤチの友達であるソフィアの正体も気になった。
読書中には、もしかしたらソフィアが萌絵なのではないか、とも疑った。
萌絵はソフィアとしてミヤチに接近したのではないか、と。
サイカワのファンだと言ったのも、城での様子を把握したいためだ。もしくは、偽サイカワの正体がわからず、彼の動向を探りたかったのかもしれない。
しかし、ソフィアはサイカワ=保呂草と面識がなかった。
萌絵は保呂草を知っているので、正体は萌絵はないだろう。
(萌絵が演技している可能性があるため、完全には捨てきれない)
気になるのは、ソフィアに当てたサインに、サイカワは、自分の正体である「保呂草」の名を使ったところ。
つまり、保呂草と面識のある女性なのかもしれない。
シリーズに登場した誰か、だろうか?
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