記事の内容
この記事では、『みんなの密教』という本を紹介します。

密教とはどんな仏教なのか、ということを知るためのちょうどいい入門書です。
この本の要約と私の感想をまとめます。
本書の一部を要約
密教誕生の流れ
大乗仏教の流れから密教は生まれた。
大乗仏教の中心にある、空の思想、身体を使った修行という体系を受け継いでいる。
そして、インドの仏教以前の信仰や慣習も取り込んでいる。ゆえに、呪術的な要素もみられる。
インドで始まった密教だが、中国に伝わり、中国から日本に伝わった。
日本での密教の体系化、普及に成功したのが空海である。
密教の五つの特徴
以下5つの特徴を全て満たすことが、他の仏教と比較して、密教の特徴である、というのが著者の立場だ。
- 宗教体験
- 修行や儀礼による体験を重視する。
- 総合性
- 元々あった仏教以外の慣習や信仰を取り入れる。
- 象徴性
- 曼荼羅など、色や形でイメージを伝える。
- 救済の信仰
- 仏や菩薩だけでなく、空海が救ってくれる。
- 実践
- 民衆に混じって活動する。
二大お経と大日如来
密教には、2つの中心的な経典がある。
- 大日経(だいにちきょう)
- 金剛頂経(こんごうちょうきょう)
理論と修行方法が書かれている。
そして、密教の教義の中心的な存在は、大日如来(だいにちにょらい)という如来だ。
一言で表すと、宇宙全てが大日如来である、というものだ。
宇宙すべてに、時間と場所を超えて浸透している存在。
すべての根源。
だから、ブッダも、その他あらゆる如来も、大日如来が姿を変えたもの。
生命、非生命問わず、すべてのものには仏性がある。
(仏性とは、仏となる素質のこと。)
三密修行
密教以前には煩悩の象徴として否定されていた身体、言葉、心。
合わせて、「身口意 しんくい」と呼ぶ。
密教は肯定し、修行に利用した。
身
印契 いんげい
手で印を結ぶ。悟りを示す印など、仏の世界の強い象徴を体感する。
口
言葉
様々な真言を使用する。
音による仏の象徴。
聖なる言葉の「音」に対する信仰と、仏教が求める「覚り」が出会ったのが、密教における真言です。真言の音の連なりは、いわば仏の世界の扉を開くための「意味を超えた言葉」であり、私たちは真言によって「自分と、この世界の中にある仏」に共鳴するように気づくのです。
意
イメージを用いる観想。
その代表が曼荼羅。
瞑想世界の具現化。
密教には、人間の五感をフル稼働させて教えを感じとるという特徴があります。「迷いの元」ともされる視覚を、「覚り」に向かう強い力に転化するという意味で、曼荼羅は非常に密教的な存在です。
融け合う2つの曼荼羅
真言密教の曼荼羅は、二つで一つ。
- 金剛界曼荼羅 こんごうかいまんだら
- 胎蔵曼荼羅 たいぞうまんだら
金剛界曼荼羅は、密教の教え、悟りを示す。
胎蔵曼荼羅は、母が子を見守るように、大日如来が私たちすべてに慈悲をむける。
きっちりした二元論を説くわけではなく、カオスを包み込むという態度が密教的だ。
自分たちの教えを究極まで純化する金剛界曼荼羅と、すべてを排除せずに吞み込む胎蔵曼荼羅。二つの重要な教えを授かった恵果や空海は、この一見矛盾する両部を同時に用いることに、密教の核心を見出したのだと思います。つまり彼らにとって重要だったのは、曼荼羅の二元化ではなく、むしろ「二元化という単純性から逃れること」だったのではないでしょうか。
すべての命が仏 密教は生命的
あらゆる生物、無生物には、大日如来が浸透し、つながっている。
森羅万象が同じ命を持っている。
全体が確かなつながりを持ちながらも、一つのものを絶対視しない。あらゆるものが無数に存在し、自分の意志で動き回ることをあたりまえに認める。それが、私にとっての「密教の風景」なのです。
つまり、身の回りすべてが大日如来の化身なのだから、それらすべてが真理を語っているのである。
即身成仏
自分自身も大日如来の現れである。
自分も世界もそのままで仏である。
私たちは何か特別なものを得て成仏するのではなく、もともと仏としての素質(仏性)を持っているのです。従来の仏教では、仏とは長い長い時間をかけて覚った人のことでした。しかし、空海は「自分の本質は、すでに仏だ」と説き、「それに気づけばいい」としたのです。これは大きな違いです。
密教は「空」と矛盾する?
「空」とは、すべての存在には、独立した実体がないというイメージ。
(空のきちんとした考え方はまた別の記事で説明したい。ここでは、イメージに留める。)
密教の「大宇宙と自分の合一」と「空」は対極的に見える。
大宇宙=大日如来も、自分も、空なのだから繋がっている、と考えればいい。
感想
個人的には、もっと細かい話を聞きたいところです。
感想
密教への入り口としていい本だと思った。
「みんなの密教」というタイトル通り、とても親しみやすい構成になっている。おかげで読みやすい。
しかし、本書は細かい話は省略している。
本書で紹介される思想は、現在の日本人の常識的感覚と共通点が多い。(歴史から見て、密教思想が浸透している事実がすごいのだが。)
ゆえに、「ふ〜ん」という感想のみで終わってしまう可能性もある。
私としては、一歩進めて、以下の要素が欲しかった。
・現代から見ても、理屈が面白いし学びになる点
・修行体系の凄い点
・他の思想と比較して、密教思想の凄い点
もちろん、「もっと奥が知りたい人間」は本書の対象ではないのだろう。ざっくりと、密教思想のエッセンスが知りたい人に本書はピッタリだと思う。
ぜひ読んでみてほしい。
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