記事の内容
この記事では、『生物の中の悪魔 「情報」で生命の謎を解く』という本を紹介する。
生命現象と物理法則を「情報」という視点で深掘りする。そもそも、物理と情報の関係はいったいどうなっているのだろう。まず、この前提の考察からとんでも無く面白い。科学だけでなく、哲学に興味ある人にも刺激的な内容になっている。
この記事では、主に内容の要約、読書メモをまとめていく。
それでは目次をどうぞ。
- 記事の内容
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- 生物の中の悪魔 「情報」で生命の謎を解く
- 情報と物理と生命 マクスウェルの悪魔
- 情報に関する新たな状態依存的法則を求めて
- 本書で紹介されている論文で気になるもの
- 関連記事
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生物の中の悪魔 「情報」で生命の謎を解く
・いったい何が、生物と他の物理的システムとの違いを決定し、生物を特別な存在にする「活力」というものを与えるのか?
・そもそも、「生命」というのは、どこから来たのか?
この問いは、20世紀半ばに「生命現象を物理法則で解明できるか」という問題提起をしたノーベル賞物理学者シュレーディンガーを嚆矢に、多くの科学者が研究を重ねましたが、未だに決定的な成果を上げることはできていません。
しかし今日、その答えはすぐ間近にあると著者は説きます。その答えを導き出きつつあるのは、コンピュータ科学、化学、量子力学、そしてナノテクノロジーなどの分野が重なるところにあります。そして、これら様々な分野をつなぐキーが「インフォメーション(情報)」です。
本書は、「情報」という概念をキーワードに、情報と物理現象との関係、生命の誕生と進化、意識の発生といった話題を、最新の研究成果とエピソードを通して紹介し、「生命の秘密」を解明しようとするものです。
特に、本書のメインというべき4章と5章では、20世紀半ば以降に急速に発達した、コンピュータ科学と量子力学を通して、生物の細胞や進化、そして多細胞生物の宿命ともいえる癌細胞の発生の過程を説き明かしていきます。さらに、近年大きな注目を浴びている「量子生物学」の分野で解明されつつある、生命の謎に関する発見を解説します。
●目次
はしがき
第一章 生命とは何か
さらば生命力
生命は驚きをもたらす
生命メーターの厄介な問題
太古の分子の物語
生命=物質+情報
第二章 悪魔の登場
分子の魔法
情報を測る
生半可な知識は危険である
究極のノートパソコン
悪魔の心を読む
情報エンジン
お金のための悪魔――いまこそ応用悪魔学に投資を
生命のエンジン――細胞の中の悪魔
ビットを超えて
第三章 生命のロジック
無限とその先へ
自らをコピーするマシン
ゲームとしての生命
生物学者はラジオを修理できるか?
生物学的回路と生命の音楽
モジュールとしての遺伝子ネットワーク
集合知
形態形成の謎
第四章 進化論二・〇
電気モンスター
ラマルク説に手を出す
遺伝子の中の悪魔
がん:多細胞生物の残酷な代償
がんの進化上の根源をさかのぼる
第五章 不気味な生命と量子の悪魔
量子論のとてつもない不気味さ
トンネル効果
光のダンス
不気味な鳥
量子の悪魔が鼻を高くする
量子生物学:どこにでも見られるのか?
第六章 ほぼ奇跡
はじめに……
生命はどこで誕生したのか?
生命はどのようにして誕生したのか?
実験室で生命を作る
影の生物圏
第七章 機械の中の幽霊
誰かいるか?
心は物質よりも上位にある
時間の流れ
電線の中の悪魔
マインドメーターの作り方
自由意志と主体
量子脳
エピローグ
図版のクレジット
巻末注
参考文献
索引
情報と物理と生命 マクスウェルの悪魔
エントロピーと情報量
エントロピーとは、「系の無秩序さの尺度」としておこう。熱力学第二法則として有名なように、宇宙のエントロピーは決して小さくならない。これがこの宇宙の大前提だ。
熱力学第二法則を正しく理解するために、こちらの動画がおすすめ。
情報量とは、知ったときの驚きの程度というイメージ。測定した系に関する無知、不確かさの程度がどれだけ下がったのかを示している。
エントロピーと情報量は、ちょうど意味的に反対の関係になっている。
※両者は本質的に同じものである、という学者もいる。『熱とはなんだろう 竹内薫』など。
情報そのものは原因となるか?マクスウェルの悪魔
- 情報は独自の法則に従うのか、それとも、その情報が表現されている物理系を支配する法則に振り回されるだけか?
- 情報は、物質に便乗した付帯現象に過ぎないのか。
- 情報それ自体が作用の原因になるのか。
- 物質の因果的作用の単なる痕跡に過ぎないのか。
- 情報の流れを物質やエネルギーの流れを切り離すことは可能か。
「情報はある種の独立した存在であって、原因的なパワーを持っている」と著者は言う。
・コンピュータ
メモリをリセットする際に熱が発生する。
・ジャルジンスキーの思考実験
情報の消去がエントロピーの増大ならば、メモリを空にすることは燃料の注入になる。つまり、空のメモリが物理的な資源になる。情報自体が燃料になっているように見える。
・マクスウェルの悪魔 思考実験
速い分子と遅い分子を観測できる悪魔がいると仮定しよう。すると、系の外部に一切変化を与えずに、その熱エネルギーの一部を仕事に変換できてしまう。これは、コストなしに無秩序から秩序をつくっている。熱力学第二法則を破ってしまう。
このパラドクスの穴は「情報測定」にある。情報測定そのものにも、実際にはコストがかかるのだ。思考実験だけでなく、実際に、情報をエネルギーに変換することを示す実験が確認されている。
生命のエンジン 細胞の中の悪魔
細胞内の分子たちは、情報を使ってランダムな熱エネルギーを方向の定まった運動に変換している。
熱力学第二法則のとおり、利用している動力源はエネルギー、または情報である。熱効率は驚くほど高い。熱効率をあげなければ、廃熱によって自らを焼き殺すことになるからだ。
無秩序から秩序を作りだす悪魔が、私たちの生命活動を支えている。
情報に関する新たな状態依存的法則を求めて
著者の方針をまとめておく。もちろん、現時点では、著者独自の仮説である。
- 生命を物理学で説明できたとして、既存の物理学だけで足りるのか?
- 生物の情報は物質を使っているが、物質に元から備わっているわけではない。情報は物理法則に束縛されていない。
- 生物を物理法則で説明するためには、物理法則の本質を見直す必要がある。
- 法則自体が絶対的に不変である、という証拠はない。
- 生物に不変の法則は当てはめにくい。情報に関する部分だけなら法則が見えるが、それらは自然法則ではない。
- 生命のゲームは、時間と共に変化する擬似法則ゲームとして見るべきだ。
- 生命の法則は対象の系の状態に左右される。自己言及的である。
- 生物の世界では、プログラムがデータで、データがプログラムである。
- カオスの中にもパターンがあるように、「情報組織における不変性」を考えるべきだ。
- 状態依存性、トップダウンのトップダウンの因果関係を含む情報法則。
- 情報自体を実在すると考えることは、「情報は説明道具でしかない」とする還元論的な物理主義と矛盾するか。「還元論的な物理主義者が持つ物理法則の意味」の方を更新するべきだ。
- 目指している情報法則は、生物そのものをあらかじめ特定するほど具体的ではない。しかし、もっと幅広いクラスの複雑な情報処理システムには有効かもしれない。そのクラスの代表例が生命だったのだ。
本書で紹介されている論文で気になるもの
1リットルの通常の空気は、アメリカ合衆国の1セント硬貨の半分にも満たない重さですが、7キログラムのボーリングボールを地面から3メートル以上投げ上げるのに十分な熱エネルギーを含んでいます。衝突する分子の不規則な運動を方向性のある運動に変換することで、その豊富なエネルギーを収穫できる装置は、確かに非常に有用でしょう。もちろん、熱力学第二法則は、単一の熱源からエネルギーを抽出して仕事に変換するという効果のみを持つ装置を禁じています。しかし、その禁止は、熱雑音を整流し、ランダムなものを方向性のあるものに変える可能性と不可能性の150年近くにおよぶ想像力豊かな思考を妨げるものではありません。
組織や器官の正しいパターンの形成と維持は、健康の礎石です。多くの生医学的な介入は、最終的に、形状に関する身体の「目標状態」を回復しようとする試みになります。これは、形態形成を制御する形態形成場(morphogenetic field)の主要な側面、すなわち、その生化学的側面[82]、生電気的側面[83,84]、物理的側面[78]、および平面極性側面[85]を理解し、修復中に生物がこの情報を活用できるようにするための技術を開発しなければならないことを意味します。幸いなことに、理論的なツールと分子的に追跡可能なモデルシステムが現在入手可能になっています。
個々の故障するシステムに対処して、身体の最後の年を延ばす英雄的な部分的な介入は、基本的に沈む船をパッチで直す戦略です。各成功に必要な介入の複雑さを増す(次のパッチを必要とする個人の数と年齢を増やす)ためのコストは、長期的には社会が負うことができない正のフィードバックループです。再生医療は、宿主内にすでに存在する継続的な器官修復のためのプログラムを活性化することで、このサイクルからの脱却を約束します。既存のモデル種の最も深いトリックを学ぶことで(これは明らかに、複雑な動物でも成人期全体を通じて完璧な再生が可能であることを示しています)、私たちは最終的に健康と病気の治療の概念に革命をもたらすでしょう。
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