記事の内容 不完全性定理に興味ある人へ
「ゲーデルの不完全性定理」という言葉、みなさんは聞いたことがあるでしょうか?簡単に言うと、その名前の通り、数学(の一部)におけるある限界を示した定理です。私自身、この定理の存在を知って以来、その英知の香りに惹かれていました。
・数学が不完全ってどういうこと?
・え、理性に限界あるの?
・自己言及ってなんだ?
興味はあるけどなんだか分からない、難しそうという印象でしょうか?
実は、一見難しそうに見えるこの定理も、骨格そのものは論理を突き詰めればたどり着くことができます。なぜなら、定理のキモは人類が親しんできた言葉のパラドックスに近いからです。
そして、ありがたいことに良質な入門書がたくさんあります。この記事では、私が実際に読んだおすすめ本を紹介したいと思います。できるだけ、専門書以外のものを選びます。
定理を勉強することの展望、そして、さらなる興味がかきたてられるはずです。
それでは目次をご覧ください。
不完全性定理概要
そもそも「不完全」という名前のインパクトが大きいですよね。何かと、完璧を求めてしまう人間理性にとって、どこか放っておけない響きがあるのかもしれません。
ウェブサイトでさらっと知りたい方にはこちらがおすすめ。哲学をやさしく説明することに定評のある飲茶さんのサイトです。
こちらから、定理を引用させてもらいましょう。
1)第1不完全性原理
「ある矛盾の無い理論体系の中に、肯定も否定もできない証明不可能な命題が、必ず存在する」
2)第2不完全性原理
「ある理論体系に矛盾が無いとしても、その理論体系は自分自身に矛盾が無いことを、その理論体系の中で証明できない」
さあ、怪しげな響きがするでしょうか?雰囲気はこのようなものです。
しかしもちろん、"完全"、"矛盾"、"証明" 、”体系”などの概念は、日常の言葉ではなく、数学の概念です。つまり、意味を厳密に把握するには数学の勉強が必要なのです。だからこそ、この定理はとにかく誤用されてきました。(後述の「ゲーデルの定理 利用と誤用の不完全ガイド」が詳しい。)
エッセンス自体は、人が古くから親しんできたパラドックスに近いものがあります。だからこそ、ある程度の理解は誰でもできるのかもしれません。
定理のキモは、「エピメニデスのパラドクス」「嘘つきパラドクス」と呼ばれるものと構造が似ています。
それらは、「私は今ウソをついている」「この文は偽である」などです。
「この文は偽である」という文は、真か偽か?
この構造は、タルスキの真理定義不可能性定理にもつながります。
これらは、命題が真か偽かに分かれるという普通の感覚をぶち壊してくれます。この不可解さと、数学の定理である不完全性定理がどのようにつながるのか、勉強を進めながら納得していってください。
ゲーデルの不完全性定理を巡る背景をWebで知りたい方は、こちらもおすすめ。
それでは、やさしめの本から順に紹介します!
理性の限界
一見、完璧に思えるような数学という分野でも、やはり限界が生じてしまう。このことをわかりやすい例え話で教えてくれます。さらに、本のタイトルの通り、「論理的思考の限界と可能性」にまで話が及びとても面白い。決して数学がメインではないので読みやすいと思います。
新哲学対話:ソクラテスならどう考える?
「知識のパラドックス」についてのわかりやすい対話が面白い。ゲーデルの不完全性定理とある種のパラドックスがどう近いのかがわかる。不完全性定理の骨格そのものは、日常の論理だけで触れることができます。数学に寄り過ぎていないし、その他の哲学的な議論もとても面白い。
無限論の教室
なぜ、無限についての話なのに、ゲーデルの不完全性定理が出てくるのだろう...
この疑問をわかりやすく整理してくれます。有限と無限の数学における歴史。数学者たちの格闘。そのある到達地点としての「不完全性定理」を紹介しているので読みやすい。
数学の深さ、数学の哲学を一般の人でも十分に楽しめる良書です。
論理学
論理学ってなんだろう、という人に最初の一冊としておすすめ。数式は多くなく読みやすい。著者が哲学者なこともあり、論理そのものについての背景の考察もためになります。論理学の基礎から、不完全性定理の証明の核まで到達できます。
以下に、この本からの個人的に注意したい点を紹介しておきます。
・ゲーデルの不完全性定理がパラドクスや矛盾を作り出したわけではないことに注意
「この文は証明できない」は、「この文は真なのだが、証明できない」か「この文は偽なのだが、証明できる」と考えられる。真偽という意味論的概念と証明という構成論的概念を区別すれば、これは矛盾でもパラドクスでもない。
・「証明できない真理」に引っかかる
「証明」には二つのレベルがある。
ある公理系での導出と、普通の言語・数学における論証の二つがある。
「ゲーデル文Gは<公理系Nでは導出不可能>であることが数学において<論証>された」
と考えるのがいい。
論証を研究対象にするからこそ起こる混乱だろうか...
論証を論証しようとするのが、メタですね。
数学ガール/ ゲーデルの不完全性定理
わかりやすく、高度な数学を楽しむといったらやはり「数学ガール」シリーズ。
不完全性定理を数学できちんとわかりたいという人に、最初の一冊としてすすめたい。初心者が読める数学的に適切な書として、とても貴重!!
集合の基礎から始まり、「形式的体系」の説明もとてもわかりやすい。無限を論理によってどう扱うのかという「イプシオロン-デルタ論法」の説明もあります。ただ、肝心の不完全性定理の説明がややとっつきにくい。それは、王道的な説明を試みているからかもしれません。エッセンスが詰まっているので、気合を入れて読み込む必要があります。
コンピュータは数学者になれるのか
タイトルからして刺激的な一冊。数学基礎論が、どのようにコンピュータサイエンスに関わるのかが分かります。不完全性定理についても、計算論(「計算する」とはどういうことか)との関係が強調されています。そのため、応用面、つまり、コンピュータとの関係を俯瞰できます。よくある誤解についての説明もあり、不完全性定理を一歩深く学ぶことができるでしょう。
今度こそわかるゲーデルの不完全性定理
不完全性定理の証明がなんだかわからない!という人におすすめ。三冊目くらいにちょうどいい気がします。そもそも、なぜ不完全性定理の証明は分かりづらいのか、ということを著者なりのこだわりをもって説明してくれています。
そもそも言葉って?
言葉と論理の関係って?
という根本的な部分から見つめ直すきっかけになるはずです。
完全性定理と不完全性定理の違いなど、誤解しがちな論点について詳しい説明がされています。
ゲーデルの定理 利用と誤用の不完全ガイド
不完全性定理は、ほんとうに誤用されがちなんですね。これは、それだけ人間知性にとって魅力的な題材だということです。しかし、中身は数学です。数学というものは、言葉の意味が厳密に定義されています。だから、日常の言葉とはズレてしまう。このズレが誤用につながってしまうのです。
完全、不完全、証明、無矛盾など、これら言葉の意味を数学として把握しなければなりません。
さらにこの定理は、哲学的な議論に使用されることもあります。この議論そのものは、まさに人類の知の結晶と言えそうです。その中に潜む誤用についても、とても刺激的な議論が満載で、知的好奇心が満たされます。
このよくある誤用については、この本のまとめとしてWikiにのっています。
現代思想 ゲーデル
哲学的な興味がある人はより楽しめるはず。数学から哲学的な考察まで、かなり刺激的。
ゲーデルの不完全性定理というものを、最新の論者、学者がどうとらえているのかが分かっておもしろい。
ゲーデル、エッシャー、バッハ -あるいは不思議の環
この本は、とんでもなくすごい本です。人類の歴史に残る名著なのではないでしょうか。一生、遊べる本。
メインテーマは、「意識はどう生じるのか」というものです。そのキモこそ、「自己言及からなる環」であるというのが著者の主張です。だから、ゲーデル、エッシャー、バッハに潜む自己言及的な構造をこれでもかと掘り下げていきます。その過程で、あらゆる領域の高度な話題が上がります。数学、科学、哲学、記号、意味、脳、心、遺伝子など...
本書のメインは数理論理学、コンピュータサイエンスです。しかし、上記に上げてきた本を読んだ後でなら苦労はするかもしれませんが、読み進められるはずです。
ゲーデルの不完全性定理から生じる魅力と、科学と哲学の素晴らしさが融合しています。不完全性定理の香りに惹かれた人が、その定理に求めるもののほとんどが、この本には詰まっていることでしょう。
到達点としても、さらなる世界の入り口としても、おすすめしたいです。
最近話題のAIについても、基礎となる考え方が掲示されています。AI基礎論としても最高の本ではないでしょうか。
不完全性定理 菊池誠
この本はやべえ。
数学的に厳密に論証しつつ、哲学的な話題にも果敢に挑む。
人の論理、知の到達点、極地の輪郭が見えます。
芸術的な一冊。
数学的に厳密でありつつ、哲学的、人間的に美しい一冊。
素晴らしすぎる。
壮大な循環論法。数学の基礎を支える底とは?
数学基礎論入門として、最強の一冊でしょう。
まとめ
読んでみたいと思える本は見つかったでしょうか?
どの本も、とても勉強できる素晴らしい本です。勉強をした分だけ、人類の英知というエキスを楽しめるようになるでしょう。「不完全性定理」を厳密につかむには、かなり慣れが必要です。こういった本で楽しみながら、徐々に進めていきましょう。役立てたなら、うれしいです。
より学問的な紹介はこちらの記事に進んでみてください。
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