人間の本性への理解を深める 進化心理学
テレビで動物特集を見るたびに、私は感じていた。
「どうして人間は、上から目線で他の動物を見ているのか?人間だって、同じ動物なはずなのに。」
こんな疑問を持っていた私にとって、進化心理学という学問はとても受け入れやすいものだった。
私たちは、動物を「〜の性質がある」「〜な習性がある」と説明する。そして、それをみんな違和感なく受け入れている。
それなら、人間のことだってそのように説明できるはずだ。
しかし、人は人を特別視したがる。私たち人間は、動物とは違う存在だ、と無意識に思っているのかもしれない。
人を動物の一種として、進化論の論理から説明する。それが、進化心理学である。人がもつ偏見によって見えなくなっていた真実が、科学というデータの蓄積によって明らかになってきた。
それでやっと、「なぜ男女は恋愛で分かり合えないのか」などに、確からしい説明できるようになる。そこから見えてくる真実は、道徳的に正しいものではないかもしれない。だから、受け入れにくい。
しかし、真実により近く、有効なものになるはずだ。私たちが暮らす社会が理不尽だからこそ、自らの、人間という種の習性を熟知することが役に立つはずだ。
しかしその分、進化心理学の内容を扱うには、科学的な慎重さが求められる。だからこの記事でも、科学リテラシーについて触れている。
今回の記事では、「進化心理学」入門に最適な本の内容を紹介する。
- 人間の本性への理解を深める 進化心理学
- 人間の本性に対する進化心理学の見方
- 男と女はなぜこんなに違うのか?
- セックスと配偶者選びについて
- 現代を生き抜く教養として
- 進化心理学の注意点と科学リテラシー
- おすすめ本・記事
人間の本性に対する進化心理学の見方
人間は動物である
たしかに私たちはユニークだが、ユニークであるという点ではユニークではない。あらゆる生物種がユニークであり、置かれた環境に適応してユニークに進化してきた。
脳も進化の産物である
人間の本性は生まれつきのものだ
人間の行動は生まれもった人間の本性と環境の産物である
サバンナ原則: 脳は石器時代のまま
私たちの体は、祖先の環境に合わせて適応を遂げている。進化の時間的な尺度で言えば、1万年という時間は短すぎる。
「私たちの脳は祖先の環境になかったものや状況を理解できず、そうしたものや状況に必ずしもうまく対処できない。」
男と女はなぜこんなに違うのか?
従来の社会科学では、文化のせいで男女差が出るように育つ、と考えられていた。
しかし、生後1日の新生児の反応に性差が見られること、サルにも性差が見られることなどの実験結果から、文化だけで性差が決まるという説は否定されている。
つまり、生まれもっての本性に性差があるのだ。
ここで重要な要因が2つある。
・異形配偶
メスの卵子が、オスの精子よりも大きく数が少ないこと。卵子の方が精子よりもはるかに希少価値があることになる。
・受精卵が母体内で育つこと
メスはオスに比べて、はるかに少ない子供しか作れない。
この2つの要因のせいで、男と女で適応度のばらつきが違う。
適応度のばらつきとは、繁殖という勝負において、勝者と敗者の格差のこと。
そして、男の方か適応度のばらつきが大きい。一生子供を持てない男の方が、一生子供を持てない女よりもはるかに多いし、繁殖ゲームの最高の勝ち組男は、最高の勝ち組女よりもはるかに多くの子供を残せる。
先ほどの2点の要因からは、自然な状態では一夫多妻になる。
男の適応度格差が大きいことによって、男は女よりもはるかに攻撃的、競争的、暴力的になってしまう。
一方女は、競争をしなくても子供を持ちやすい。一夫多妻なのだから。
これを証明するのが、例外の存在だ。一部の動物には、オスの体の中で受精卵が育つものがいる。その場合、メスの方がずっと競争的、攻撃的になるのだ。
セックスと配偶者選びについて
文化や宗教、民族に関わらず、異性に求めるものは共通している。つまり、何を望むのかも、遺伝子に影響されている。
男が女に望む大きな要因の1つが、「若さ」である。なぜならば、繁殖能力と直結しているからだ。
高い繁殖能力をもつ女を好むように、男は進化してきた。(繁殖ゲームに勝つためには、そう進化しなければならなかった)
この観点から、進化心理学は次のような謎を説明しようと試みる。
・男はなぜセクシーなブランド美女が好きで、女はなぜセクシーなブランド美女になりたがるのか
・なぜ売春は世界最古の職業で、ポルノ産業は10億ドルの市場規模を誇るのか
・なぜ男は若い女と恋愛をするのに、その逆はないのか
これらを文化のせいではなく、進化という原理から説明してくれる。
だからこそ、そこで重要になるのが、生物にとってもっとも大事な「繁殖というゲーム」の論理なのである。
これは、次の帰結をもたらす。
政治、宗教、経済といった領域の人間の行動の根元にも、セックスの論理があるのだ。それらのモチベーションの根元にはセックスと配偶関係がある。
この本は、それらの研究成果をまとめてくれている。
・家族の進化心理学
・犯罪と暴力について
・政治と経済と社会について
・宗教と紛争について
これらを進化心理学、つまり、配偶とセックスの論理から説明してくれる。
さらに興味がある人は、ぜひ本書を読んでみてほしい。
現代を生き抜く教養として
現代の日本では、恋愛、結婚をする男女はどんどん減ってきている。
しかし、生物の本質はあくまでも「繁殖」である。「私たちは遺伝子の乗り物に過ぎない」というわけだ。
だからといって、子孫を残すことだけが人間の生き方ではもはやない。子供を持たない選択する人は大勢いる。幸せの形は、個人の数だけあるはずだ。
だが!!!!
その「幸せ」すらも、進化心理学で説明できるのでは???
人間が何に幸せを感じるのか、これも進化がデザインしたものである可能性がある。それならば、配偶者と子供を育てる生活こそが多くの人間にとって幸せな生活である、と導かれるのでは?
「幸せ」という質的な研究の成果は、まだ溜まっていないのかもしれない。今後の研究成果を待つしかない。
しかし現状、次のことは言える。
自分にとってどんな生き方が幸せなのか、自分自身でよくよく吟味することの重要さは増すばかりなはずだ。
そのために、進化心理学という教養は有効だと思う。考えるヒントとして。
自分自身のことが見えれば、自分にとっての幸せも見えてくるはずだ。
進化心理学の注意点と科学リテラシー
進化心理学のような分野は、受け入れにくい人が多いようだ。
実際に、進化心理学をベースにした橘玲氏の「言ってはいけない 残酷すぎる真実」という本は、不都合な内容になっている。人間の道徳にとって、受け入れにくいものなのだ。
しかし、進化心理学は科学である。
そして、だからこそ科学リテラシーが必要になる。科学、進化心理学が導く主張は、「〜である」というものだ。
「〜であるべきだ」と主張しているわけではない。
例えば、「男の方が暴力的だから〜するべきだ」「女の方が〇〇だから〜するべきだ」といった、「〜であるべきだ」という主張は、進化心理学の領域ではない。
それらは、道徳の問題であり、それを実行する議論の仕事こそ、政治の問題なはずだ。
科学は、より確からしい事実を教えてくれるものにすぎない。(もちろん、科学の発見も修正されていく)
だからこそ、冷静に事実を受け止め、何が確からしいのかを批判的に考える科学リテラシーが求められる。しかし、一般的に科学リテラシーは養いにくい。なぜならば、題材が日常とかけ離れているものが多いからだ。
しかし、進化心理学は、恋愛やセックスなどを根底におく。まさに、みんなが関心を持っていることである。だからこそ、進化心理学は科学的な考え方を養う格好の題材になるのではないか。
科学リテラシー育成のために、義務教育で教えてもいいくらいだと思う。
一般論に注意!!
もう一つ、進化心理学の主張で注意しておくべきことがある。
進化心理学は、統計に基づく一般論の話をしている。だから、それをそのまま個々のケースに当てはめてはいけない。
「男の方が女よりも背が高い」これは誰もが認める一般論だと思う。
しかし、個々のケースを見れば、男よりも背が高い女もいる。
進化心理学の注意点、ご理解いただけただろうか?
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