記事の内容
森博嗣の最新シリーズの一冊目「それでもデミアンは一人なのか?」の内容をまとめます。
デミアンとは一体何者なのか?
「一人なのか?」という問いかけの意味とは?
これまでのシリーズとはどんな関係があるのか?
森博嗣の未来感のさらなる拡張は?
まだ読んでいない方は、ネタバレが含まれるので注意してください!!
ファンなら必ず楽しめるある要素が含まれています...
それでは、目次をご覧ください。
それでもデミアンは一人なのか? 森博嗣
この表紙かなり好きです!!
つねにベストは更新される。
最新WWシリーズ始動!
カタナを帯びた金髪碧眼の戦士、デミアン。 記録上は存在しない特殊兵器。楽器職人としてドイツに暮らすグアトの下に金髪で碧眼、長身の男が訪れた。日本の古いカタナを背負い、デミアンと名乗る彼 は、グアトに「ロイディ」というロボットを捜していると語った。
彼は軍事用に開発された特殊ウォーカロンで、プロジェクトが頓挫した際、廃棄を免れて逃走。ドイツ情報局によって追われる存在だった。知性を持った兵器・デミアンは、何を求めるのか?
シリーズを読んでいる人ならお馴染みの「ロイディ」というキャラクター。彼が最新シリーズにどう絡んでくるのか...
拡大を続ける森博嗣の世界観。毎回、知的興奮が滾る。
著者である森博嗣については、こちらの記事へ。
デミアンとは何者なのか?
まずこの小説を読み始めて驚くのが、デミアン視点の物語ではないということ。
デミアンが主役として進むのかと思っていた。デミアンの設定を聞いて、ファンなら思い浮かぶのは、「ヴォイドシェイパ」シリーズのゼンのようなキャラではないだろうか?
しかし、今回のシリーズは、デミアンではないとあるキャラクターの視点で話が進んでいく。(一体誰の視点で話が進むのかが、最大のネタバレになってしまうか?)
デミアンのどこが特殊なのかが、今作のポイントになる。
デミアンのボディには、ウォーカロンとしての脳と、人間の脳が共存しているのだ。だから、その構造の先駆的モデルである「ロイディ」のボディを探している。
だから、タイトルの「デミアンは一人なのか?」という問いが浮かび上がってくるのではないか?
ここで、ほかに二人の重要なキャラがいる。
ドイツ情報局のヘルゲンと彼の妹のミュラだ。
物語の終盤にそのヘルゲンが殺されていしまう。そして、その死体から首だけが持ち去られてしまう。
持ち去った人物こそ、デミアンだった。
デミアンはなぜヘルゲンの首を持ち去ったのか?
ヘルゲンの体に脳はなく、彼の脳こそデミアンのボディにあったのだ。ヘルゲンの死体に脳がないことがばれないように、首だけを持ち去ったのだ。
デミアンとヘルゲン、二人だと思っていた存在が実は一人だった。
しかし、話はここで終わらない。
ヘルゲンの妹のミュラ、彼女の体にも脳がなかったのだ。
つまり、3人だと思っていた存在が実は1人だった。その1人こそ、デミアンという存在だった。
この2段階のどんでん返しこそ、この小説の山場だろう。SF作品ならではの仕掛けである。
人間というものがあるから、人間でないものが生まれる。
トランスファとデミアン
森博嗣作品の中で、「トランスファ」という概念がある。詳しくは、「wシリーズ」を読んでみてほしい。
簡単に言うならば、電子空間に広がる知能としての自律したユニットである。
そのトランスファの概念が、今作ではより考察されている。
トランスファというものの存在が、初めて理解できたと直感した。すなわち、人間の脳内をネット上に展開したものなのだ。ロボットに人間の脳を載せる代わりに、このネット空間全体を頭脳にしてしまう。そうなれば、ネットとインタラクティブな関係にあるあらゆるメカニズムが、ロボットの装備となる。否、ロボット本体が存在しなくても良い。その究極の形態こそが、トランスファという新しい人工知能だったのだ。コンピュータから進化したのではなく、人間の頭脳から派生したものといって良い。
こうした世界における神経信号が、トランスファだったのだ。それを人間が、自分たちの頭で理解しようとして、「トランスファ」と呼んだにすぎない。「名前」というものを人間は「理解」と捉えるが、人工知能には一過性の「処理」でしかない。
デミアンという存在は、人間がデザインしたものではなく、トランスファがデザインしたものではないか、と考察される。この転換も、この作品のテーマが詰まっていてとても面白いところだ。
「メビスウの帯」という発想もワクワクする。
僕が想像したのは、裏返しの人間、裏返しの肉体だった。 人間の肉体は、皮膚が外側にあり、その内部に臓器や筋肉や骨格がある。
デミアンは、肉体は一つであり、内と外がある。その肉体は、こちらの世界に属していて、周囲からも存在を認識されている。しかし、彼の思考は、電子空間に向かって開いている。彼の頭の中は、実は躰の外側であり、電子空間のある領域が内側になる。
内側と外側の連続は、メビウスの帯のように 捩じれをイメージさせるが、そうすることでしか、実空間と電子空間に同時に存在することはできない。
こちらから見れば一人の青年だが、むこうから見れば、一人ではないかもしれない。姿というものが、そもそも作られたデータでしかない世界なのだ。あちらから見れば、実体の青年は、単なる影にすぎないだろう。
個体、そして、脳と身体。
これらに関しては、現状でも様々な議論がある。
個人的には、とくに心と脳の関係を扱う「心脳問題」に興味を持っている。知能、人工知能に関しては、次の記事がおすすめだ。
本作最大の見所、ネタバレは??
本作の語り手、つまり主人公は誰なのか、ということだ。
グアトとロジャという男女のペアが主役になる。
この2人の正体こそ、wシリーズの「ハギリとウグイ」なのではないか?はっきりとは明言されないものの、様々な状況からそう推測できる。
これすらも、作者のミスリードの可能性も否定できないが(笑)
wシリーズのあの2人のその後の物語としても、ファンはとても嬉しいところだろう。
是非読んでみてほしい。
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