記事の内容
この記事では、ベストセラーでもある生命科学の入門書『生物と無生物とのあいだ』という本を要約します。
コロナウイルスにより、生命科学に興味を持つ人が増えたように感じます。
だからこそ、この本のような生命の本質をつく情報が知恵として重要です。
そして、なによりもこうした教養はともて楽しい。
本書の入り口としての問いは、なぜ生命はエントロピー増大の法則に抗えているように見えるのか、というものです。
よく考えると、不思議ですよね。
それでは、内容をまとめていきます。
生物と無生物のあいだ
生命とは、実は流れゆく分子の淀みにすぎない!?
「生命とは何か」という生命科学最大の問いに、いま分子生物学はどう答えるのか。歴史の闇に沈んだ天才科学者たちの思考を紹介しながら、現在形の生命観を探る。ページをめくる手が止まらない極上の科学ミステリー。分子生物学がたどりついた地平を平易に明かし、目に映る景色がガラリと変える!
【怒濤の大推薦!!!】
「福岡伸一さんほど生物のことを熟知し、文章がうまい人は希有である。サイエンスと詩的な感性の幸福な結びつきが、生命の奇跡を照らし出す。」――茂木健一郎氏
「超微細な次元における生命のふるまいは、恐ろしいほどに、美しいほどに私たちの日々のふるまいに似ている。」――内田樹氏
「スリルと絶望そして夢と希望と反逆の心にあふれたどきどきする読み物です! 大推薦します。」――よしもとばなな氏
「こんなにおもしろい本を、途中でやめることなど、誰ができよう。」――幸田真音氏
「優れた科学者の書いたものは、昔から、凡百の文学者の書いたものより、遥かに、人間的叡智に満ちたものだった。つまり、文学だった。そのことを、ぼくは、あらためて確認させられたのだった。」――高橋源一郎氏
本人が直接話されているこちらもおすすめ。
生命とは「流れ」だ 動的平衡
物理学者のシュレディンガーは『生命とは何か』という本を書きました。
彼はあることに注目しています。
なぜ原子は、生命の身体と比べてこんなに小さいのか?
原子は、絶え間のないランダム運動に支配されています。無秩序に揺れ動いているのです。
ということは、わたしたちの細胞の内部の原子たちも、揺れ動いちゃうはずですよね?
そうであるなら、生きている状態を保てません。
では、わたしたちの身体はどうやって「秩序」を維持するのでしょう?
秩序ある現象は、膨大な数の原子が一緒になって行動する場合にはじめて、その平均的な振る舞いとして現れるのです。
平均を安定させるためには、原子の数が多ければ多いほどいいわけです。
だから、原子と比べて生命はとても大きいのです。
しかし、さらに大きな問いが浮かびます。
すべての物理学的なプロセスは、物質の拡散が均一なランダム状態へと向かいます。
エントロピー増大の法則です。
ではなぜ、私たちは生命は、エントロピー増大の法則から逃れられているのでしょう?
ヒントは、
「秩序は守られるために絶え間なく破壊されなければならない」、というものです。
わたしたちの構成部品である原子は、つねに入れ替わっています。食べ物を取り入れると、その食べ物に含まれていた物質と、わたしたちの体にもともとあった物質が交換されます。
個別の実体としての身体というイメージが崩れますよね。
つまり、わたしたち生命は、
分子たちの一時的な淀みでしかないのです。
生命は、エントロピーが増大してしまう前に、先回りして自身を分解してしまいます。
エントロピー増大の法則に抗う唯一の方法は、
仕組みそのものを流れの中におくことだったのです。
変わらないために変わり続けることによって、バランスを保つ。
これが平衡ということです。
生命は実体としてそこにあるのではなく、流れが作り出す効果としてそこにある動的な「平衡」、なのです。
生命とは動的平衡にある流れである
これが本書の主要なメッセージです。
だからこそ、著者はウイルスは生物ではない、と考えます。
生物とは自己複製するシステムである、という定義では不十分だとみなすからです。
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