記事の内容
『生命とはなにか』という本を紹介します。
この本は生物学の基礎を5つのステップで紹介してくれます。
・細胞
・遺伝子
・自然淘汰による進化
・化学としての生命
・情報としての生命
今回の記事では、おもに、化学としての生命、情報としての生命という視点から本書の内容をまとめていきます。
WHAT IS LIFE? 生命とは何か ポール・ナース
本書は、ノーベル生理学・医学賞を受賞した生物学者ポール・ナースが、「生命とは何か?」について、語りかけるようなやさしい文体で答える一冊。
著者が、生物学について真剣に考え始めたきっかけは一羽の蝶だった。12歳か13歳のある春の日、ひらひらと庭の垣根を飛び越えた黄色い蝶の、複雑で、完璧に作られた姿を見て、著者は思った。
生きているっていったいどういうことだろう? 生命って、なんなのだろう?
著者は旺盛な好奇心から生物の世界にのめり込み、生物学分野の最前線に立った。本書ではその経験をもとにして、「細胞」「遺伝子」「自然淘汰による進化」「化学としての生命」「情報としての生命」の生物学5つの重要な考え方をとりあげて、生命の仕組みについての、はっきりとした見通しを提示する。
・・・あなたの出発点がどのレベルにあろうと、そう、たとえ科学って苦手だなぁと感じている人も、怖がらないでほしい。この本を読み終えるころには、あなたや私や繊細な黄色い蝶、そしてこの惑星上のすべての生き物が、どのようにつながっているか、より深く理解してもらえるはずだ。私と一緒に、「生命とは何か」という大いなる謎に迫ろうではないか。(本書の「まえがき」より)
化学としての生命 カオスからの秩序
あらゆる生物の細胞内では、何百何千もの化学反応が同時進行しています。
化学反応は細胞の命の現れなのです。
これら化学反応をまとめて、代謝と言います。化学反応を促進し、加速させる媒介物が酵素です。
酵素は何者で、何からできているのでしょう?
様々な性質をもったアミノ酸が組み合わされたタンパク質でできています。このアミノ酸の紐は立体構造をとります。その結果、それぞれのたんぱく質に独特な形と固有の化学的性質が与えられるのです。このおかげで、酵素は、働きかける相手の化学物質とぴったりと組み合わさることができます。
極小の細胞の中には、東京の人口の何倍ものたんぱく質がつめこまれています。細胞の中が、こんなに混沌としていていいのでしょうか?様々な化学反応を運営するために、細胞内は細かい区画に整理されているのです。
また、わたしたちが食べるものの大部分は、最終的に細胞のミトコンドリアで処理されます。食べ物に含まれる化学的エネルギーを利用し、ATPを作ります。アデノシン三リン酸、略してATPはエネルギーを蓄えた電池のようなものです。
あらゆる生物には、安定したエネルギー供給が必要です。生命はATPで動くのです。
細胞や生体構造は複雑ですが、突き詰めれば、理解可能な化学的かつ物理的な機械なのです。だから、カオスから秩序をつくることができます。
情報としての生命 全体として機能するということ
外側にある環境の変化と自身の内側の変化について、生命は情報をつねに集めて利用しなければなりません。
生命は目的をもって行動します。つまり、利用している情報には意味があるのです。
生きている身体の各部位は、全体のために存在しています。そして、全体は各部位のために存在しています。
細胞が全体として機能するためには、さまざまな機能を持ったモジュールたちが情報を伝え合う必要があります。
DNAそのものも、遺伝子をコードする情報です。また、細胞は、必要になった時に、特定の遺伝子をオンにできます。遺伝子調節です。
このおかげで、形のない胚から人間になれるのです。
腎臓を作るための遺伝子調節では、腎臓に必要な遺伝子だけが胚細胞で「オン」になり、皮膚や脳を作るために機能する胚細胞は「オフ」になります。
細胞は、こうした情報をどうやって伝えたり管理しているのでしょうか?
たんぱく質などの化学的な勾配をつくり、それを情報源として利用する方法が指摘されています。
著者は、情報の観点から生命を見ることの重要性を強調しています。
情報を中心に据えた生命観は、細胞より高いレベルで生体を理解する助けにもなる。細胞が相互作用して組織を生成する方法や、組織が器官を作る方法、器官が協力して、人間などの完全に機能する生き物を作り出す方法に光を当てることができるんだ。
生命とは何か?
生命の本質を定義するのは難問です。しかし、著者は生命の3つの条件を提案します。
一つ目は、「自然淘汰による進化」です。進化するために、生き物は「生殖」し、「遺伝システム」を備え、その遺伝システムが「変動」する必要があります。この三つの特性をもつものが、進化するのです。
二つめの条件は、生命体が境界をもつ、物理的な存在であることです。環境と自己の境界をひく、細胞が基本です。また、物理的な存在であるため、コンピュータプログラムなどは除外されます。
三つ目の条件は、「生き物は化学的、物理的、情報的な機械である」ことです。
自らの代謝を構築し、その代謝を利用して自らを維持し、成長し、再生する機械なのです。情報を操り、目的を持った総体として機能します。
「生きている機械」を理解するカギは、化学です。
化学的に安定した情報記憶装置であるDNAと、多様性に富んだ化学的に活性した分子であるたんぱく質。生命の化学的特質のこのような側面は、驚異的です。
ウイルスは遺伝情報をもつ化学的な存在です。他の生物に依存しているため、ウイルスは生きていないとも言われます。
しかし、他の生物から完全に独立した生物は存在するのでしょうか?
私たち人間も、人と人以外の細胞が混ざり合ってできた生態系です。たとえば、腸内細菌は、細胞が自分では作れない、特定のアミノ酸やビタミンを生成してくれます。
生命は多様ですが、化学的、物理的、情報の機械として、細部の基本的な機能は一緒です。
こうした生命のつながりこそが生命の中核なのだ、と著者は言います。
より詳しくは、本書へどうぞ。
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