記事の内容
法とは、いったいなんなのでしょうか?
概念を深く理解するためには、その起源へと遡ることが有効です。
そうした過程をたどり、そもそも法とは何のためにあるのかを深掘りしている本を紹介します。
『誰のために法は生まれた』という本です。
このタイトルを意識して、読み進むべき本です。
何のために?
誰のために?
この視点に腰をおろし、深掘りしていきましょう。今回の記事では、本書のエッセンスをできるだけ取り出してみます。
誰のために法は生まれた 木庭顕
追いつめられた、たった一人を守るもの。それが法とデモクラシーの基なんだ。替えのきく人間なんて一人もいない―問題を鋭く見つめ、格闘した紀元前ギリシャ・ローマの人たち。彼らが残した古典作品を深く読み解き、すべてを貫く原理を取り出してくる。この授業で大切なことは、感じること、想像力を研ぎ澄ませること。最先端の知は、こんなにも愉快だ!中高生と語り合った5日間の記録。
法は正義の追求とは異なると、はっきり述べている点に注意。これが本書の立場。
それでは、法の核とはなにか?
法とは、一旦ブロックするための原理である!
なら、誰が誰をなぜブロックするのか?
この視点をおさえて、次に進んでみてほしい。
法の原点と核心
次の2つの概念に、本書が述べたい法の核がある。
・徒党やグル
・占有
「権力と利益をめぐって蠢き個人を犠牲にする集団の解体」
これが、本書の最大のテーマであり、法の原点だ。
人間という生き物は、すぐに集団をつくりグルになる。そして、ある個人を操ろうとしてしまう。たった1人である個人は圧倒的に不利だ。そんな個人を守るためには、不当な集団のパワーを解体するしかない。
そして、暴力を除外したいから、言語による決定にこだわる。力で強制されてしまうなら、権力や利益の存在を肯定してしまう。
徒党解体を体系的に遂行して個人の自由を保障する社会組織の具体的な活動こそ、政治である。
土地は奪い合いの対象だ。つねに徒党を発生させてしまう。だから、政治のためには、テリトリーでない空間を用意する必要があった。それが都市だ。
法には、占有の原理がある。
まずは争いになったその時点での力関係の質をみる。一方が物と結びついていたのに、他方が暴力的にそれを奪おうとする。そのとき、一旦後者をブロックする。前者の方が有利となる。
追い詰められた最後の一人のために、法はある。
つまり、徒党による暴力をまずは徹底的にストップさせ、解体させることになる。ここを破ってしまえば、審議の場である裁判に参加すらできない。手続きレベルで排除される。追い詰められた1人の人に肩入れするのが本来の法。だから、ルールなら何でも法だと考えるのは間違い。
これらを踏まえると、法にとって正義の追求は二の次。素人はどうしてもどっちが正しいかを見てしまう。法律家は正しくないとしても緊急に危ない方を大事にする。
法の原点こそ、占有原理である。そしてそれは、徒党解体と深く結びついている。
法の必要性に共感できる
タイトルの通り、誰のために法が生まれたのか理解できた。法は万人に平等かのように見える。しかし、万人の中でも、特に追い詰められた個人を守るのが優先なのだ。なぜならば、人間の集団、徒党が個人に及ぼす影響は不当すぎるからだ。そのために、占有という質と緊急性を尊重する原理がある。
本書は古典や映画を題材にしている。おかげで共感しやすい。人間という集団の癖を物語で体験させてくれる。こうした共感こそ、問題を問題だと感じるために重要だと著者は考えている。
本書が語る法の起源と占有について、法の専門家はどう反応するのだろう。彼らの書評があるのならば、そちらもぜひチェックしておきたい。
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