記事の内容
言語の本質とはなにか?
この問いに、オノマトペの性質を探ることで迫る。
それが今回紹介する本の試みだ。
言語の大問題である記号接地問題。
オノマトペが、いかにこの問題に関わっているのか。
人工知能に興味がある人にも、言語に興味がある人にもとてもおすすめな本になっている。
- 記事の内容
- 言語の本質 ことばはどう生まれ、進化したか
- 1 オノマトペとは何か
- 2アイコン性 形式と意味の類似性
- 3 オノマトペは言語か
- 4 こどもの言語習得 オノマトペ
- 5 言語の進化
- 6 子どもの言語習得 アブダクション推論
- 7 ヒトと動物を分かつもの
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言語の本質 ことばはどう生まれ、進化したか
日常生活の必需品であり、知性や芸術の源である言語。なぜヒトはことばを持つのか? 子どもはいかにしてことばを覚えるのか? 巨大システムの言語の起源とは?ヒトとAIや動物の違いは? 言語の本質を問うことは、人間とは何かを考えることである。鍵は、オノマトペと、アブダクション(仮説形成)推論という人間特有の学ぶ力だ。認知科学者と言語学者が力を合わせ、言語の誕生と進化の謎を紐解き、ヒトの根源に迫る。
1 オノマトペとは何か
「フワフワ」
「ニコニコ」
「ぐつぐつ」
「べちゃべちゃ」
「キラキラ」
「ゲラゲラ」
私たちの会話には、オノマトペが溢れている。
オノマトペの定義
感覚イメージを写し取る、特徴的な形式を持ち、新たに作り出せる語
オノマトペは基本的に物事の一部分を「アイコン的」に写し取り、残りの部分を換喩的な連想で補う点が、絵や絵文字などとは根本的に異なると指摘した。
2アイコン性 形式と意味の類似性
普通の言葉と違って、オノマトペは音と意味が似ている。
写し取るというオノマトペの性質ゆえに、その語形や発音、構成音そのものの特徴、さらには共起するジェスチャーや表情にまでアイコン性が宿る。言い換えれば、オノマトペは、その語形・音声や非言語行為のアイコン性を駆使して、感覚イメージを写し取ろうとすることばなのである。
そして、アイコン性が体系化されている。日本語には日本語のオノマトペのアイコン性が体系化されてるため、日本人以外には共有しにくい感覚がある。
形式と意味の類似性...
記号接地問題の根っこが見えてきた。
3 オノマトペは言語か
筆者らは、オノマトペは言語であると考える。言語の特徴を示す10の性質を満たす場合が多いからだ。
言語は身体的である。
言語は身体とつながっているという考えにとって、言語的な特徴を多く持ちながら、言語でない要素もあわせもつというオノマトペの性質はうまく合致する。言語の身体性をどこまでも強調していくと、「言語のすべてが身体につながっているのか」という問いに行き着きそうだ。ただ「はじめに」ではっきり述べたように、言語はあくまでも極度に抽象的な記号の体系である。このことは間違いない。すると、身体と、言語という抽象的な記号の体系の間を、何かで埋める必要があるのである。
言語の特徴を持ちながら身体につながり、恣意的でありながらもアイコン性を持ち、離散的な性質を持ちながらも連続性を持つというオノマトペの特徴は、ミッシングリンクを埋める有望なピースとなる。
4 こどもの言語習得 オノマトペ
オノマトペから子どもが得る気づき。
・母語の音、並び方の特徴
・人の発する音がなにかを指すこと
・母語特有の音と意味の結びつき
・子どもが注目するべき部分、言葉の意味を見つけやすくする
音とそれ以外の感覚モダリティの対応づけを助けるオノマトペのアイコン性が、言語という膨大で抽象的な記号の体系に踏み出す赤ちゃんの背中を押し、足場をかけるという大事な役割を果たすことを述べてきた。
5 言語の進化
なぜオノマトペは、あくまでも言語の一部であり、主流ではないのか?
なぜ、赤ちゃんは言語習得の過程でオノマトペが不要になっていくのか?
人は、言語習得の過程で、アイコン性と恣意性の関係を変えながら、母語のバランスを身につけていく。オノマトペから始まり、母語のしっくり感を学んでいく。
一次的アイコン性→恣意性→体系化→二次的アイコン性」というサイクルによって、当該言語の成人母語話者は、抽象的な記号であることばに対して、抽象性を感じず、空気や水のような自然なものとして、身体の一部であるような感覚を持つに至る。
この図式が記号接地問題の答えではないか。
6 子どもの言語習得 アブダクション推論
オノマトペから言語の体系の習得にたどり着くためには、「ブートストラッピング」という、今ある知識がどんどん新しい知識を生み、知識の体系が自己生成的に成長していくサイクルを想定する必要があると考察した。しかし、ブートストラッピング・サイクルが起動されるためには、最初の大事な記号は身体に接地していないといけないのだ。
ブートストラッピング学習を起動させる能力こそ、アブダクション推論だ。言語体系に対して、あれこれ推論しつつ仮説を調整していく。その過程で見られるのが、数々の言い間違えである。
人が持つアブダクション推論能力が、言語習得の鍵である。
7 ヒトと動物を分かつもの
あの果物にはAという名前が付いている。
人間ならば、Aをみればその果物を思い、その果物をみればAという名を思うだろう。
当たり前のことに見える。
しかし、人間以外の動物は、こうした対称性推論がほとんどできないのだという。
対称性推論をしようとするバイアスがあるかないか。このような、ほんの小さな思考バイアスの違いが、ヒトという種とそのほかの動物種の間の、言語を持つか持たないかの違いを生み出す。そして言語によって、人間がもともと持っているアブダクション推論が、目では観察できない抽象的な類似性・関係性を発見し、知識創造を続けていくというループの端緒になるのだと筆者たちは考えている。
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