記事の内容
森博嗣という作家をご存じでしょうか?
彼の作品数はとても多いです。
今回は、そのなかでもとくに評価が高いシリーズを紹介します。
それは、『ヴォイド・シェイパ』シリーズです。
この記事では、シリーズのうち、どの本から読めばいいのか順番を紹介します。そして、このシリーズの見どころをネタバレなしでまとめます。
とても好きな作品なので、「好き」がたくさん詰まった紹介になると思います。
最近、ノベルス版も新たに発売されましたね!
まだ読んだことがない人はぜひ読んでみてください。
それでは、目次をご覧ください。
森博嗣とは?
工学部教授でありながら、『すべてがFになる』で小説デビュー。ミステリー小説のシリーズが初期は多かった。そのあとは、大学教授もやめ、作家業もペースを落とす。
現在は、仕事ではなく自分のやりたい趣味に時間を使っている様子。今の生活が自由でほんとうに楽しいらしい。
最近では、新書やエッセイも多い。彼の自由で鋭い思考には、いつも感心させられてしまう。
彼については、次の記事で詳しく紹介しています。
『ヴォイド・シェイパ』シリーズとは?
ざっくりというと、侍が主役の剣豪小説。
劇中で、時期や地理は明言されていないが、侍たちが活躍する全盛期を少しすぎた時代が舞台になっている。
主人公は、ゼン(ゼンノスケ)という名の青年。彼は、幼いころから、ずっと山の中で師と二人で生活してきた。その師は、天下一ともいわれるほどの大剣豪だった。剣術を教わり育ったゼン。師の死をきっかけに山をおり、彼の旅が始まる。
まっすぐな侍であるゼン。彼が、自らの高みをめざすために、さまざまな出会いと真剣勝負を繰り広げていく話になっている。
読む順番は?
このシリーズは、タイトルを見ただけでは読む順番がわからない。
刊行順は次のようになっている。
ヴォイド・シェイパ the void shaper
ブラッド・スクーパ the blood scooper
スカル・ブレーカ the skull breaker
フォグ・ハイダ the fog hider
マインド・クァンチャ the mind quencher
この順に読むのが、おすすめの順番である。ただし、作者いわく、どれから読んでも面白いはずだ、という。
それでは、本シリーズの魅力をネタバレをひかえつつ、まとめていきたい。
主人公ゼンの「綺麗」さ
本作は、主人公ゼンの一人称視点で進む。だから、ゼンとともに、私たちもこの世界を体験していくことができる。
このゼンの性質が重要である。
ゼンの性格がとにかく「綺麗」なのだ。
森博嗣の他作品を読んだことがある人なら分かると思う。彼の作品に登場するキャラクターたちは、ほんとうに綺麗な思考をすることが多い。この雰囲気が好きで、森博嗣の作品にハマっていく人も多いだろう。
ここでいう「綺麗」とは、どういうことだろうか。もう少し、述べてみたい。
・常識に染まっていない
・抽象度が高い、本質を見抜いている
・理屈っぽい
・素直
・淀みがない、邪魔が少ない
・思考停止していない
・他者や社会の価値観や評価に無関心
・自分の価値観は自分で選ぶ
こんな要素が特徴になると思う。これらをまとめた印象が、「綺麗」という感想になる。(あくまでも個人的な印象ではある)
ファンならおなじみの森博嗣節が鋭く展開される。
理屈は鋭いのに、読んだ印象がとても柔らかい。
この作品の凄いところだ。
侍と理屈 考える侍ゼン
肝心な点は、ゼンは侍だということだ。
侍とは、刀を振るい力を求め人の命を奪う。一見、「理屈」とは相性が悪いように思える。しかし、ゼンは「考える侍」なのである。
この融合が本書の最大の魅力だと思う。
ゼンもやはり、剣の高みを目指していく。その過程には、さまざまな戦いや出会いがある。もちろん、何度も人の命を刀で奪っていく。
そんな彼は考える。言葉にしようとしていく。静かに自問自答を繰り返す。
・強さとはなにか
・自分の剣に不足しているものはなにか
・命とはなにか
・人とはなにか
こうした抽象的な話が、侍であるゼンの視点から語られていく。ゼンの成長とともに、読者である私たちも、こうした思考に浸ることができる。
こうした抽象的な思考には、作者である森博嗣の腕が発揮されている。ふつう、読みづらくなったり、くどくなったり、説教くさくなってしまうものだ。けれど、とても読みやすい。流れるように理屈が披露される。
とくに注目すべきなのは、やはり「剣の高み」だろう。ゼンが到達した「強さ」とはどういうものなのか。
「考える侍」であるゼン。
「思考」の反対となんだろう?
「強さ」の反対とはなんだろう?
ヒントは、ゼン(禅)という名前のとおり、仏教的な考え方だ。仏教や禅に詳しい人も、とても楽しめる作品になっているはずだ。
ぜひ体験してみてほしい。
戦闘シーンも「静か」
本作は、剣豪小説だ。もちろん、刀での戦闘シーンがある。
この戦いの描写はとても体験的だ。うまい。派手ではないのだが、高みをもとめる侍の戦い方とはこういうものだろう、と思わせるような精密さを感じる。
映画化もされた森博嗣の『スカイクロラ』シリーズの戦闘描写に近いかもしれない。静かなのだが、「集中」が加速していく感じだ。『スカイクロラ』とは違い、本書には専門用語はほぼ出てこない。剣豪小説なのだから、私たちにとってもずっとなじみやすいものだ。吸い込まれるように、読書に集中できる。
小説は言葉でできている。だから、どうしても戦闘を「説明」することになる。しかし、実際の戦闘、斬り合いには、言葉が入り込む隙はほとんどない。集中とは言葉が要らなくなる状態、と言えるのかもしれない。であるならば、言葉と集中という相反するような状況をどのように表現するのか。この点の工夫こそ、本作の魅力だとおもう。
ぜひ、体験してみてほしい。
まとめ
本シリーズである5冊目を読み終わった私の感想は、「ああ、綺麗だなあ」というものでした。この作品の世界にいつまでも浸っていたい気分が続きます。
森博嗣の感性がつまった、本当に素晴らしい作品です。
理屈ぽさと剣豪小説の融合というこの独特な作品をぜひ楽しんでみてください。
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