記事の内容
「こころ」とはなんだろうか?
この謎を解明するためのアプローチには、たくさんある。それらを総括し、道筋を示してくれるのが、「心の哲学」という分野だ。近年の脳科学の成果により、よりスリリングな議論が展開される分野でもある。
はたして、脳科学さえ進めば、心の正体はすべて明らかになるのか??
そう簡単にはいかないことが、心を哲学するとわかってくる。「クオリア問題」など、科学では絶対に解決できない、という専門家もいる。
今回の記事では、「こころ」に興味がある人すべてにおすすめな哲学の入門書を紹介したい。それでは、目次を見てみてほしい。
心の哲学入門 金杉武司
「心とは何か?」という素朴な疑問に、哲学はどう答えるのか。哲学的に考える方法をまったくの初心者に向けて語る、初めての入門書!
身近でありながら、よく考えてみるとそれが何なのかわからないような基本的なものごとを問うのが「哲学」である。本書ではそうしたものの一つである「心」に焦点を当て、心の哲学の基本的な概念や考え方を解説するとともに、哲学的に考えるとはどういうことかを一歩ずつ問い進める。自ら考える力を身につけるための、新しい哲学入門。
明快な答えは得られない入門書
本書の特徴は、明快な答えではなく疑問で終わる点である。
テーマが心の哲学という難問だからでもあるとおもう。現在でも、議論が続いているからだ。
その議論へ入門するための基本的な考え方が本書では整理されている。そこで一貫しているのは、疑問を持つというアプローチ法だ。「わからない」に対して、どんな疑問を持てばいいのか、この本ではそこが丁寧に書かれている。まさに、本質的な問いを持てるようにするという、哲学の考え方を訓練することができる。
「哲学」の入門書としても、とてもいい本だと思う。
・アプリオリとアポステリオリ
・論点先取り
・必要十分条件
などなど、哲学的議論の方法についてのコラムもあり、とにかく初心者に優しい本だと思う。
心は非物理的な存在か?物理的な存在か?
心の正体をめぐる議論は、大きく言えば二つの立場がある。科学が発展してきた現代において、世界には、物質的なものしか存在しないように見える。二元論を擁護するのは、難しそうだ。しかし、物的一元論ですべてを説明することも成しえていない。
・二元論
心は非物理的な存在である。
・物的一元論、物理主義、唯物論
心も物理的な存在である。
二元論の2つの困難
・心物因果
二元論では、心は非物理的な存在。それなら、心の状態が原因で、どうやってある脳状態が生じるのか?
心を持ち出さなくても、神経科学的に、脳状態だけで因果関係の説明ができてしまう。
・心脳同一説
心の状態は特定のタイプの脳状態と同一である
・機能主義
心の状態は、特定の機能で定義される
3志向性
志向性と表象
何かを表したり意味したり、何かについてのものである、という性質。言葉や絵も、志向性をもつ。
志向性こそ心の本質だ、とする哲学者も多い。
志向性を持つものは、表象と呼ばれる。言語や記号などがそうだ。しかし、この世にあるほとんどの物質は、ふつう志向性を持たない。
たいていの心の状態は、志向性を持つ。しかし、痛みの感覚などは志向性を持つだろうか?
志向性を持つかどうかのポイントは、その心の状態が何かに向けられているかどうか、である。
命題的態度
心の状態は、どのような仕方で何かを表象するのか。
言語には、語が文法によって組み合わされるという「構文論的構造」という特徴がある。
・内在的特徴と志向的特徴
表象によって表象されている特徴と、表象自体に備わる特徴の違いに注意。「青い」という語の2文字であるという性質と、それが志向する「青いという性質」を区別する。前者を内在的特徴、後者を志向的特徴と呼ぶ。例えば、言語など構文論的構造をもつ表象は、いつも内在的特徴を共有している。
・命題的態度
表象内容が「〜ということ」というタイプの場合、それを志向する心の状態は、言語的な状態である。命題に対する心の状態なので、命題的態度と言われる。
水を飲みたいという欲求の表象内容は、「水を飲むこと」という命題になる。
心脳同一説、機能主義が正しいといえるためには、脳状態もまた、内在的特徴として、構文論的構造を持っていなければならない。
しかし、知覚などの表象内容は、命題的だろうか?
そもそも、命題とは何か?についても、深い議論が必要になってしまう。本書では、命題とはある仕方で捉えられた限りでの事態である、とざっくりと定義している。
志向性の説明
心の状態がなぜ指向性をもつのかについては、大きく二つの立場がある。
・因果的説明
XがYを表彰するのは、XがYの原因であるとき。
しかし、「表象の誤りの可能性」を説明できない。
・目的論的説明
心の状態の原因ではなく、結果、すなわち行為に注目する。
これは、生物の進化の歴史によって形成されてきた。よって、物的一元論の枠組みにおさまる。
しかし、それなら進化のないモノ、つまりロボットは志向性を持ち得ないことになる。
課題
・すべての心の状態は、志向性をもつか?
・実際に脳状態に構文論的構造があるのか?
・心の状態がなぜ志向性を持つのかを説明するための、因果的説明、目的論的説明は、完全ではない。
4心の合理性
・合理性
行為や命題的態度を、理由に基づくものとして解釈する。
命題的態度の本質を何に求めるかのかで、消去主義と解釈主義は立場が異なる。
・消去主義
ニューラルネットワークの識別能力は、分業制ではない。全体に分散して表象しているのである。つまり、脳状態に構文論的構造はない。それゆえ、常識的に考えればその存在が自然な命題的態度の存在は否定される。
・解釈主義
常識的に考えられる合理的な説明によって、命題的態度や行為が理にかなったものと解釈できる。消去主義のように、因果関係を求めない。
命題的態度は、その本性上、合理的な在り方をした存在なのである。すると、解釈主義は、私たちの不合理性をどう説明するのか???
そこで、解釈主義では、局所的な不合理性認める。それも、その他大部分の合理性によって支えられているのだ、と。
まとめ
本書では、最後に二つの視点が述べられて幕を閉じる。やはり、明快な答えが示されるのではなく、疑問が整理されている。
・中立一元論
心は、物理的な存在でも、非物理的な存在でもない。中立的な存在であり、それが物理的な側面、非物理的な側面を持っているだけだ。
しかし、その「中立的存在」とはなにか?
→個人的には、この中立一元論を支持したい。この中立的存在の正体として、「情報」という概念や、仏教における「空」がヒントになる気がしている。
「情報」については、次の記事が参考になる。
・心は、相対的にしかアプローチできない存在か?
「一番おいしい食べ物は何か?」この答えは人による。このように、心という存在も、相対的な存在か?心という客観的な事実は存在しないのか?
ぜひ詳しくは、本書へと進んでみてほしい。
本書は、あくまでも入門書である。さらに突っ込んだ議論については、いろいろとよさそうな本がある。何冊か紹介したい。
入門的でありながら、かなり深いところまで議論が進む。脳と心の関係をズバッと示してくれる。
本書で学んだ基礎をふまえ、よりおもしろい議論へと導いていくれるのが次の本だ。哲学入門としても独特で、かなりおすすめの一冊である。今回紹介した、「目的論的説明」、発生的観点から哲学をすることが楽しめる。
ほかにも次のような本が本格的でおすすめである。
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