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クオリアと人工意識【本紹介】 知能研究に足りないことこそ、クオリアだ!

記事の内容 人工知能研究に足りない視点は何か?

 

・意識はコピーできるか?

・人工知能に意識はうまれるか?

 

 

現状活性化している人工知能研究は、統計的な数理に基づいている。その方向へさらに進んでいけば、クオリアの謎の解明、人工意識は可能なのだろうか?

 

茂木はそれを否定する。

 

今回紹介する本は、人工知能研究を軸に私たちの意識の謎に迫っている。

 

そして、人工知能研究はなぜ意識の問題に触れていないのか、という問いを著者である茂木健一郎は強調している。

 

この問いに共感する人には、とてもおすすめできる本になっている。本書から、いくつかの論点をまとめたい。

 

 

 

知性と意識・生命

 

・人工知能研究は、「知性」にだけ焦点を当てすぎているのではないか?

 

意識、生命、知性といった現象の関係を見るべきだ。

 

そもそも、「私」が「私」であるということの証しは、「私」が賢いこと、知性を持っていることによるのではなく、ただ「私」が「今、ここ」に意識を持った存在として在ることに求められる。そのような意味で意識と知性はとりあえずは分離可能であるはずだ。

 

より本質的なのは、私自身の「意識」だ。

 

ペンローズは、「意識」がなければ「理解」もなく、「理解」がなければ真の「知性」もないという考え方を表明している。

 

現状の人工知能研究は、生命や意識という方向へ向かうべき。

 

 

 

 

 

知性の性質

 

・人間の知性の特徴とはなんだろうか?

・知性とは人間だけのものか?

 

人間の知性の特徴は、計算性にではなく、外からやってくるものを感知し適応する点にある。人工的な知能のカラクリがわかっていくなら、「一般知能」のようなものも見えてくるはず。

 

 

知性がある一定時間にできることは限られている。  だからこそ、知性の本質は、顕在化した具体的計算能力よりも、むしろ、どのような環境にも適応できる変化の能力に見られる。脳の神経回路網で言えば、「可塑性」( plasticity)と呼ばれる性質である。

 

問題は、人工知能に、「真理の大海」を想起する能力があるかということだ。  今、自分が知っていることではなく、その「外」の存在を認知し、予感すること。それは、意識の働きのうち、「志向性」( intentionality)の機能である。

 

 

 

 

 

意識とクオリア

 

・意識の特徴とはなにか?

 

意識の特徴として、クオリアと志向性が挙げられている。

 

意識を定義し議論することは難しい。人によって意識についてのイメージが違いすぎるからだ。

 

また、茂木は物理学の万物の理論についても、「意識」も考慮するべきだという。

 

・意識はどのような表現なのか?

 

コンピュータ内部の情報表現と意識の表現は同じではない、と茂木は指摘する。

 

脳の中の情報「表現」という時に、外界の事象のレパートリーが最初にあって、ただ単にそれを脳内で再現するだけという理論の枠組みは、扱いやすいが、本来、「ゼロ」からすべてが脳内現象として立ち上がる意識の本質を扱うのに適したアプローチではない。

 

外の対象を再び脳の中に表現しなおしているわけではない。ここが、意識の重要な性質だという。これは、「夢」という現象が分かりやすい。一切外からの刺激を受けていないのに、ありありとした意識体験が夢にはある。認知科学の情報科学をベースにしたアプローチの限界に見える。

 

 

・意識、クオリアはなぜあるのか?

 

そもそも、意識は、なぜあるのだろうか。  さまざまな説明が可能だが、意識の本質であるクオリアには、脳というシステムの中で、ある情報の自己同一性( identity)を立ち上げ、それを保証するという役割がある。

 

認識の単位の自己同一性を直接たちあげてくれる。

そして、クオリアとは意識に直接与えられているものだ。

 

「直接性の原理」は、簡単に言えば、神経細胞の活動からどのような意識が立ち上がるかということは、さまざまな分析(特に統計的なそれ)を経由することなく、「自然現象」として、直接的に仲介項なく与えられなければならないという考え方である。

 

神経細胞の活動の統計的分析は、たとえ、第三者の視点から神経活動を科学的に解き明かす上では有効だとしても、直接性の原理によって意識が生まれるプロセス自体ではない。そのような意識に直に結びつくような「身体性」が統計的分析にはない。ここには、意図的ないしは無意識のカテゴリーの混同がある。

 

クオリアの直接性こそ、既存の統計的なアプローチでは解明できないと強調されている。

 

 

 

 

 

意識は知性から創発するか?

 

創発しない。

 

人工知能研究が扱っている数学的な「計算」という知性には、意識は必要ないように思える。

 

生命の意識の本質には「いきいき」という体験質がある。知性も意識も、生命の随伴現象であるという方向が適している。茂木は、このクオリアとしての「いきいき」を意識において欠かせない点だと捉えている。

 

このまま人工知能研究を進めていけば、意識も創発してくるという素朴な見方には、茂木は反対だ。

 

 

 

 

統計的アプローチで意識は解明できるか?

 

できない。

「今、ここ」を説明する原理は、統計の数学的理屈とは合わない。

 

統計的な解析の有効性は、時間、空間の限定を超えた「アンサンブル」を考えるという思考の自由度に依存している。しかし、その自由さゆえに、かえって、「今、ここ」で生まれる意識の内容とは関係のない、時間的にも空間的にも離れた事象を拾ってしまう。

 

 

第三者の視点からの時間、空間の限定を超えた「アンサンブル」を前提にした分析、解析ではなく、「今、ここ」で起こっている神経細胞の活動の内部関係に即した理論構築をしなければ、クオリアを生み出す意識の根源は解き明かすことができない。

 

 

よって、統計的な計算パラダイムに基づいている現在の人工知能研究の先には人工意識は見えない、と茂木は指摘する。

 

 

 

 

「私」の「意識」はシミュレーションできるか?

 

できない。

 

コンピュータの中でのシミュレーションとはどういうことなのかを考えるべき。

 

モデルと実体を混同してはいけない。

 

コンピュータの素子がある運動をして、それが「写像」を通して地球の気候変動に結び付けられるとしても、それは、コンピュータの中に自然現象としての気候が存在することを意味するわけではないのである。

 

「意識のモデル」が作られるだけであって、自然現象としての私たちの意識が実在することにはならない。

 

 

 

 

情報内容が同じならば、それは同じ「自己意識」か?

 

そうとは言えない。

 

自分の脳の完全なコピーである脳があっても、そのこと自体は「私」の「自己意識」に何らの影響も与えない。ましてや、片方の脳 Aに、もう一方の脳 Aを百倍幸せにするから今ここで死んでもいいかと尋ねたり、あなたの自己意識は、もう一つの脳 Aにコピーされているから、あなたはこの世界に二人いることになるのだと言っても、そのような操作によって、「私」の自己意識そのものは全く変化することがないだろう。

 

それでは、「自己意識」の同一性は何によって担保されるのか?

 

自己意識の同一性は、それが時間の中で続いていくということを通してしか担保されない。よって、意識にとっての「時間」という視点が重要になる。

 

 

 

 

まとめ

 

本書には、茂木が重要だと思ういくつもの「問い」があふれている。

 

なぜそうした問いが重要なのか、本書を読めばわかると思う。しかし、本書にはそれらの問いに対するはっきりとした答えはない。茂木が思う「方針」が示されるだけである。

 

やはり読後に残るのは、「意識の謎の深遠さ」だろうか。

 

人生において、触れて、悩んでおくべき問いだと私は思う。

皆さんはどう感じるだろうか。

 

 

 

 

 

 

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